ネーミングライツ制度は、いまや多くの自治体で導入が進む官民連携の仕組みの一つとなっている。
しかし、制度を導入すれば自然と企業が集まり、事業が成立するというものではない。
実際には、同じような制度を導入していても、企業からの応募が継続的に集まる自治体と、ほとんど応募が集まらない自治体が存在する。
この違いはどこから生まれるのだろうか。
ネーミングライツの実務を見ていくと、その成否は地元企業等への積極的な声かけなどの「営業活動」よりも、むしろ制度設計の段階で大きく左右されていることが分かる。
ガイドラインは制度の「枠組み」
多くの自治体が策定しているネーミングライツに関するガイドラインには、概ね次のような項目が整理されている。
- 対象施設
- 募集方法(特定施設募集型など)
- 契約期間
- 命名権料
- 審査方法
これらは制度を適切に運用するための基本ルールであり、ネーミングライツ事業の土台となる重要な要素である。
一方で、ガイドラインはあくまで制度の「枠組み」を示すものであり、具体的な成果を左右する要素のすべてを規定するものではない。
実務上、ネーミングライツの成否を左右するのは、次のような制度設計の部分である。
- どの施設を導入対象とするか
- 命名権料の設定基準をどうするか
- 契約期間をどの程度とするのが適切か
- 企業にとってどのような関わり方が可能になるのか
一見すると基本的な項目に見えるが、実際にはそれぞれの判断が企業の応募意欲に大きく影響する。
例えば、命名権料が地域企業の規模に対して高すぎれば応募は集まりにくくなる。
逆に低すぎれば、公共施設の価値に対する評価として適切かどうかが議論になる可能性もある。
また、対象施設の選定や契約期間の設定も、企業が参加を検討するうえで重要な要素となる。
こうした点を踏まえると、ネーミングライツ制度の設計は、単なる事務手続きではなく、企業の参加可能性や導入意義を見据えた制度設計の領域といえる。
「営業」だけでは成立しない
ネーミングライツの導入が進まない場合、「企業へのアプローチを強化するべきではないか」といった議論になることもある。
もちろん、関係性の高い地元企業への案内や情報発信は重要である。また、広告代理店など仲介事業者を経由したアプローチも、当該自治体圏外の企業にネーミングライツ導入検討を促すうえで有効な施策といえる。
しかし実務的には、そもそものネーミングライツの制度設計が十分でない場合、営業活動だけでネーミングライツを成立させることは難しい。
例えば、
- 命名権料が地域企業の規模に対して高すぎる
- 対象施設の価値や特徴が十分に整理されていない
- 企業にとって参加する意味が明確でない
といった状況では、企業が応募を検討すること自体が難しくなる。
また、単純な広告商品として捉えられ、費用対効果のみで導入が見送られるケースも少なくない。
一方で、制度設計が適切に整理されている場合には、特別な営業活動を行わなくても企業から問い合わせが寄せられるケースもある。
この点から見ても、ネーミングライツは単なる営業商品というより、企業が参加しやすい制度として設計されているかどうかが重要になる。
成功している自治体の共通点
ネーミングライツが継続的に成立している自治体を見ると、いくつかの共通点がある。
まず、対象施設の選定である。
自治体が保有する施設のすべてがネーミングライツに適しているわけではない。
利用者数、認知度、イベント開催状況、さらに地域にとっての施設の重要性などを踏まえ、一定の露出価値を持つ施設を選定することが重要になる。
次に、命名権料の設定である。
命名権料は単に高く設定すればよいというものではない。
企業側が期待する価値や地域企業の規模などを踏まえ、現実的な価格帯を設計することが求められる。
もちろん前述のとおり、低すぎる設定は財源確保手段として十分な効果を得られない可能性がある。
さらに、契約期間の設定も企業の意思決定に大きく影響する。
ネーミングライツは短期的な広告ではなく、企業ブランドと施設名称が一定期間結びつく取り組みであるため、継続性が重要になる。
こうした要素を総合的に設計することで、企業にとって参加しやすい制度となり、ネーミングライツが成立しやすくなる。
ネーミングライツは広告だけではない
ネーミングライツは、単なる広告事業として理解されることも多い。
しかし、公共施設の名称に企業名が付くという仕組みは、一般的な広告とは性質が異なる。
公共施設は地域住民が日常的に利用する場所であり、その名称は地域社会の中で長く使われ続ける。
そのため、企業名が施設名称として定着することは、単なる広告露出とは異なる意味を持つ。
企業にとっては地域との関係を深める契機となり、自治体にとっては地域企業との新しい連携の形となる。
こうした関係性を前提に考えると、ネーミングライツは広告枠の販売というより、公共施設を媒介とした官民連携の仕組みと捉えることができる
市民理解を前提とした制度設計
ネーミングライツは公共施設を対象とする制度であるため、市民の理解も重要な要素となる。
公共施設の名称は地域にとって象徴的な存在である場合も多く、名称変更に対してさまざまな意見が出ることもある。
そのため、
- 対象施設の選定
- 名称の扱い
- 制度の目的
などについて、市民にとって納得感のある形で整理しておくことが求められる。
ガイドラインの中で関係者や市民への意見聴取が導入手続きに組み込まれていることも多いが、より具体的な想定が必要となる場合もある。例えば、短期間で施設名称が頻繁に変わることはないかといった点である。
企業にとって魅力的な制度であることと、市民に受け入れられる制度であること。
この両立を図ることが、ネーミングライツ制度の設計において重要な視点となる。
制度設計から考えるネーミングライツ
ネーミングライツは、自治体にとって新たな財源確保の手段であると同時に、地域企業との新しい関係を築く仕組みでもある。
どの施設を対象にするのか。
どの価格帯で募集するのか。
どのような企業に参加してもらうのか。
こうした判断は単なる募集条件の設定ではなく、自治体がネーミングライツをどのような目的で活用するのかという「戦略」とも深く関係している。
つまり、ネーミングライツ制度の設計は、自治体が地域資産をどのように活用し、企業や地域社会とどのような関係を築いていくのかという戦略的な判断の一部でもある。
ネーミングライツは、営業だけで成立するものではない。
制度設計から考えることが、成功への第一歩といえるだろう。
NAME BRIDGEでは、全国のネーミングライツ事例や制度の整理を通じて、自治体と企業の双方がネーミングライツを検討するための情報基盤の整備を進めている。
制度設計の視点からネーミングライツを理解することが、これからの官民連携を考える上での重要な出発点になるはずだ。
NAME BRIDGE編集部